「私の電車 宇宙の電車」
セイジ、ミナミ、キタコ、アケミ、車掌、ルリ、女、男、探偵、ハルコ(45分)

Artículo cedido por Ignacio Suárez Beauville
ignaciob@terra.es

セイジ  よし、ここで花火をしよう。ここほどスリリングな場所はほかにはないぞ。
ミナミ  確かにそうね。よく思いついたわ、踏切の中なんて。けど、ほんとに電車が来たらどうするのよ。
キタコ  そんなの、逃げればすむわよ。
セイジ  大丈夫、これくらい平気だって!
ミナミ  ・・・オーケー、わかったわ。じゃあ花火大会、はじめましょ。
 
(三人、ろうそくに火をつける)

キタコ  きれいだね。
セイジ  だな。
ミナミ  まず、ねずみ花火やりましょうよ。
キタコ  糸は?
ミナミ  わたしが持ってるわ。
セイジ  僕が火をつけるぞ。三・二・一・・・・・
三人   ゼロ!
 
(音。彼等は電車に気付いていない。わめく三人。)

キタコ  次やろう!次!
セイジ  なんにする?
ミナミ  ちょっと和風に、線香花火なんてどう?
キタコ  あ、それいいかも。ねえ。
セイジ  やろう。線香花火。

(花火を見つめる三人。気がついたときにはもう遅い。)

三人   !

(すさまじい音。後には闇だけが残る。)

(電車の車内。男女が数人立っている。彼等は人ではない。)

セイジ  今日は妹の明美の入学式。中学校に入る明美は、これから毎日、この電車に乗る。 
ミナミ  三年前、この電車は事故を起こした。踏切をくぐり抜けてふざけていたバカな高校生に気付かず、ひいた。
キタコ  そのバカな高校生があたし達。あたし達は成仏しないまま、この電車に取り憑いた。
セイジ  ぼくは吊革になった。
ミナミ  わたしは窓になった。
キタコ  あたしは座席になった。
  
(舞台明るく)

ミナミ  七時!一時間もすれば来るわよ、おじさん達が。キタコ、せいぜい頑張ってね。いまはすいてるけど、これから大変ね。
キタコ  相変わらず口が悪いわね。
ミナミ  余計なお世話よ。
セイジ  そろそろ明美も来るんじゃないかな。あいつ、せっかちだから。
ミナミ  どんな子なの?
キタコ  あんたと正反対の可愛い子よ。
ミナミ  ごめんなさいね、可愛くなくて。
キタコ  あたしのことを、キコ姉ちゃんって呼んでくれてたのよ。近所だったし。本当に可愛いんだから。
セイジ  いやあ、照れるなあ。
ミナミ  そんなに可愛い妹さんなの?
セイジ  どうだろうなあ。僕にとっては可愛いけどなあ。
キタコ  誰が見たって可愛いわよ。あたしも妹欲しいなあ。
セイジ  やめといたほうがいいぞ。可愛いけど、面倒だから。
キタコ  そんなことないわよ。あ〜あ、もうちょっと生きたかったな。
ミナミ  わたしの親もどうしてるか心配だわ。元気かしら。
セイジ  僕の親はどうだろうな。一度家に帰ってみたいんだ。
キタコ  もう三年もたってるのよ。みんな元気よ。それにこの話題、あたし達が死んでから何度も出てるわ。昨日だって、セイジのお母さんが明美ちゃん連れて乗ってきたじゃない。
セイジ  そうだな、みんな元気にやってるよな。母さん達だって、もしかしたらもう僕の事なんて忘れてるかもしれない。
ミナミ  (笑いながら)それはさすがに言い過ぎじゃない。
キタコ  まったくもう。その通りよ。
セイジ  けど、三年間電車に取り憑いてて、いろいろあったよなあ。電車の中には、こんなに面白いことがいっぱいあるなんて、思いもしなかったよ。
ミナミ  いつもあたしの方を向いて、騒いでる小さな子。
キタコ  あたしの上で寝ている、失礼なおじさん。
セイジ  見回りに来る車掌さん。
ミナミ  間違った車内アナウンスのあとの、照れた声。
セイジ  おばあさんに席を譲ってあげる男の子。
キタコ  悪い世の中って言うけど、そうでもないのね。電車の中は、一ばん人間が人間らしくなるみたい。
セイジ  そうかもな。
キタコ  いいところよね、電車の中って。ミナミがいなければ。
ミナミ  いいところよね、電車の中って。キタコがいなければ。
セイジ  おいおい、何度目だと思ってるんだ。毎日毎日言い合いして。
二人   だって。
セイジ  まったく、二人とも仲がいいのか悪いのか、はっきりしろよ。
キタコ  あ、セイジ君。
セイジ  えっ?(向こうを見る)あっ!明美!
ミナミ  ねえねえ、どこにいる子?
キタコ  あそこよ。ドアの所にいる、制服の子。あ、いま、こっちに来る。
ミナミ  あの子?あの、可愛い子?
セイジ  こっちこっち。今、僕の下にいる子だよ。
ミナミ  ああ、この子ね。
セイジ  そうそう。この子だよ。
ミナミ  かわいいわねえ。
(明美が入ってくる。まだ似合わない制服姿)
アケミ  まだ七時。よし、絶対間に合う。「初日に遅刻」だけは避けられたわ。
(と、セイジの手につかまり、)
アケミ  ぐらぐらだわ、この電車。吊革がないと立ってもいられない。
(電車止まる。構内アナウンス。木星駅。)
車掌の声 太陽系線、太陽行き。木星駅です。かけ込み乗車は、おやめ下さい。
アケミ  あと三駅。金星でおりれば、スクールバスが来るんだよね。
セイジ  明美も大きくなったなあ。ぼくが死んで、もう三年になるんだ。手をつなぐのもひさしぶりだよ。
ミナミ  でも、妹さんから見たら、ただの吊革よ。
キタコ  でもいいじゃない。毎日会えて。あたしも明美ちゃんに会えるのはうれしいし。それともあんたはあのまま死んでた方が良かったわけ?
ミナミ  わたしはもう嫌よ。あなたのおしゃべり毎日聞いてすごすなんて。三時間も四時間も喋るんだもの。ギネスブックにのるわよ。
キタコ  ほめてくださってありがとう。そういうあなたの悪口もオリンピック並よ。
ミナミ  なんですって?
キタコ  なによ!
セイジ  まあまあ。ミナミも、キタコも。
二人   だまってて!
アケミ  お兄ちゃん。
三人   え?
三人   え?
アケミ  今日から中学生です。お兄ちゃんみたいなバカなことはやりません。ほんっとにお兄ちゃん、大馬鹿者なんだから。これから学校です。いってきます。これから毎日お兄ちゃんに向かって喋ります。もし聞いてたら、ぜひ返事して下さい。
セイジ  明美・・・
キタコ  明美ちゃんを妹に持って、幸せね。天国にいるお兄ちゃんにあいさつするなんて。
ミナミ  キタコとは大違い。
キタコ  そんなこというミナミだって!
ミナミ  へぇ〜。だいたいキタコだって・・・
(停電。闇に。)
キタコ  何?!
アケミ  えっ!
セイジ  何がおきたんだ!
車掌   お客様!落ち着いて、落ち着いて下さい!
アケミ  何が起こったんですか?
車掌   わかりません!
ミナミ  無責任な人ね。
車掌   あっ!いま、無線で連絡が入りました!はい、こちら、太陽系線七号電車。
ルリの声 こちら惑星電車システム管理室。爆弾テロ発生だ。
車掌   ・・・・・・・・・・・・・へ?
ルリの声 だから、爆弾テロだ。
車掌   爆弾テロ?
アケミ  爆弾テロ?
セイジ  爆弾テロ?
ミナミ  爆弾テロ?
キタコ  爆弾テロ?
五人   (顔を見合わせ)爆弾テロ!
(五人、パニックになり、悲鳴を上げる)
ルリの声 とりあえず落ち着け。あんたの電車ののどこかに爆弾があるはずなんだ。今、犯人らしき人物から、電話がかかってきた。
アケミ  (通信機をとり)あ、あの、え〜と、お兄さん?あたし達、どうなるんですか?
ルリの声 お嬢ちゃん、あたしはれっきとした女なんだけど?
アケミ  え?
ルリの声 あたしは女なの。そっちにいる車掌はあたしの旦那。
アケミ  すっ・・・すみませんでしたっ!絶対男の人の仕事だと・・・
ルリの声 まあいいよ。とりあえず、車内の電力システムを使うと、爆発するそうだから。そして一時間で自動的に爆発。くれぐれも警察には喋るなということだ。
ミナミ  どっちみち助からないじゃない!
アケミ  脱出はできませんよね。
車掌   死ぬのを待つしかないんです。

(時計の音。段々小さくなりながら)
セイジ  僕たちは成す術もなかった。明美の入学式の日に、こんな不幸が待っていたなんて。僕は考えた。犯人は誰か。どうやったら助かるのか。けれど、頭の中は真っ白なままで、何も浮かばなかった。
車掌   いよいよ俺もおだぶつか・・・・
アケミ  車掌さん、何か話してもらえませんか?静かだとだんだん怖くなってきて・・・・
車掌   いいですけど、何を喋りゃあいいんです。
キタコ  奥さんへのプロポーズ!
ミナミ  やめてよ、そんな話題。
キタコ  いいじゃない、別に。どうせ聞こえないんだから。
車掌   う〜ん、じゃあ俺の家内との結婚についてでも話しましょうか。
キタコ  ラッキー!
ミナミ  まったく。何でそんなにのん気なのよ!
セイジ  面白そうじゃあないか。聞いてみようぜ。
車掌   俺とルリが出会ったのは、七年前の秋だった・・・
ルリ   すいません、あの、財布と時計とハンカチと定期とカギとボールペン落としましたよ。
車掌   あ、すみません。最近落とし物が多くて。
ルリ   そうですか。あたしもよく落とし物するんです。同じマンションなんですね。
車掌   あ、こんど二階に越してきた深山(みやま)です。どうぞ宜しく。
ルリ   こちらこそ。
車掌   あ、あの、何号室ですか?今度お礼をしたくて、
ルリ   六○五号室です。あなたは、二階の何号室?
車掌   二○一。二○一です。
ルリ   また今度お会いしましょうね。
車掌   一目惚れだったんですよ。それで、五年間つきあって、俺は勇気を出してプロポーズしたんですよ・・・

ルリ   なに?深山君。
車掌   お、俺と・・・
ルリ   結婚しよう。でしょ。あたしもそう思ってたとこなんだ。
車掌   い、いいのか?
ルリ   決まってるでしょ。
車掌   本当に?一生?
ルリ   もちろんよ。
アケミ  車掌さん、かっこいい!
キタコ  ほんと、かっこいい!
車掌   いやあ、照れるなあ。
セイジ  いい話じゃないか。
ミナミ  聞いてるこっちが恥ずかしかったわ。
ルリの声 あんたねえ、なに喋ってんのよ!
車掌   ル、ルリ!
ルリの声 通信機の電源が入ったまま!まる聞こえだよ!
アケミ  怒られちゃいますね。
車掌   ああ。
ルリの声 帰ってきたって絶対家に入れないからね。
車掌   じゃあ、意地でも帰ってやるさ。二両編成のこの電車の、百名余りの乗客を連れてな。
アケミ  やっぱり車掌さん、かっこいい。
(探偵がやってくる)
探偵   事件だ!
(車掌を指さしながら)
探偵   君は今まで、このような危険な目にあったことがあっただろうか!無いだろう!君の職業は非常に安全なものだ。不慣れなことに戸惑っているだろう!私がいれば大丈夫。私は探偵だ!その名も東 耕助!
ミナミ  うるさい人ね。
キタコ  同感。
車掌   で、あなたはどうすれば助かると思うんですか?
探偵   この電車はたった二両じゃないか。つまり、爆弾を探せばいいんだ。
セイジ  なるほど。
アケミ  たしかにそうかも。
ミナミ  何で気付かなかったのかしら?
キタコ  ホントにあたし達ってバカ。
車掌   一理ありますね。アナウンスで呼びかけてみましょう。
探偵   やめろ!
車掌   なぜです!
探偵   犯人がそれを聞いてたらどうするんだ!私物のなかに入れられたら、探すことは不可能だ!
アケミ  そんなこと言ったって、あたし達三人だけでってわけにはいかないでしょう。
探偵   大丈夫。三人いれば十分だ。
車掌   本気ですか!
探偵   もちろんだ。まず君がお客に協力を頼む。後は私とそこのお嬢さんとで探せばいい。怪しい動きをするものがいたら、そいつが犯人だ。
キタコ  へぇ〜。おもしろそう。ドラマみたい。ねえ。セイジ君。
セイジ  笑い事じゃ無いぞ。もしかしたら明美が死ぬかもしれないんだ。
ミナミ  そして、わたしたちも。今度こそ、魂ごと吹き飛ばされるわ。
アケミ  あたし、手伝います!
車掌   しょうがない、俺も手伝いますよ。
探偵   行こう!爆弾を探しに!

男    そろそろだ。
女    そろそろね。
男    爆破システム感知装置の準備はいいか?
女    はい。
男    銃は持ったか?
女    はい。
男    これから惑星電車システム管理室に侵入するぞ。
女    管理室に行けば電車の監視ができるのね。
男    そうだ。私達は管理室に侵入し、乗っ取るのだ。
女    いよいよですね。
男    宇宙車を用意しろ。これからすぐに出発だ。
女    タイムリミットは一時間。時間が過ぎればこっぱみじん。
男    計画表を忘れるなよ。
女    もう車に積んでありますよ。
男    そうか。
女    行きましょう。あの忌まわしい太陽系線七号電車。あいつの最後をこの目で見 届けるために。(車に乗り込み)
男    計器異常なし。エンジン全開、
二人   出発!
(轟音。)

アケミ  車掌さん、あった?
車掌   俺の所では、まだ・・・
探偵   根気が足りないんだ。根気が。
アケミ  だってもう随分探してるわよ。あたしたち。
探偵   弱音を吐くな!男ならシャキッとしろ!
アケミ  あたし女だもん。
車掌   全く失礼な探偵さんですね。
キタコ  ほんとよね。
セイジ  もう十五分くらい経ったよな。あと四十五分か。
ミナミ  もうだめよ!わたしたちも、お客さんたちも!
キタコ  悲観的になるのはやめてよ!こっちまで怖くなってくるじゃない!
アケミ  ねえ、探偵のおじさん。もしかして一号車にはないんじゃない?あたしはむこうの二号車にあると思うんだけど。
探偵   そうかもしれんな。
車掌   行きましょうか。
(三人去る。)
キタコ  ねえねえ、あたし達も協力しない?騒いでたってどうしようもないし。
ミナミ  わたしたちはただのモノよ!窓と吊革と座席でしかないのよ!
キタコ  でも、まわりを見ることくらいはできるじゃない。
セイジ  そうだよ。明美達が見れなかったところも、ぼくたちは見れるじゃないか。例えばキタコの体の中とか。
キタコ  体の中って言い方はやめて。座席の内部とかって言って。
セイジ  悪い悪い。あやまる。
ミナミ  あたしはいや。爆弾なんて見つからないわよ!
セイジ  でもあるかも知れないじゃないか。
ミナミ  じゃあ振り向けばそこにあるとでも言うの?(振り向く)ほぉら。あるわけがな・・・・・・。
キタコ  どうしたのよ?
ミナミ  ば、爆弾!
セイジ  あったのか?!
ミナミ  わたしの背中のほう!窓の横の非常用酸素ボンベの所!
セイジ  誰かが外からこじ開けたんだ!そして中に爆弾を!
ミナミ  何で気がつかなかったのかしら!わたしのせいだわ!
セイジ  とりあえず爆弾は見つかったんだ。良かったじゃないか。
キタコ  見つかったんだから、早く明美ちゃんたちに知らせなくちゃ!
三人   ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
ミナミ  どうやってよ?
キタコ  そうだ!呼べないんだ!
セイジ  立ち往生か・・・。
キタコ  お〜い!明美ちゃ〜ん!
ミナミ  来るわけないでしょ!
セイジ  後何分?
ミナミ  え〜と・・二十六分!
キタコ  それしかないの!?いそがなきゃ!でも・・・もしかしたら・・・。
ミナミ  駄目かも知れない。二十六分十一秒。十、九、八、七、六、五、四、三、二、一、二十五分。
キタコ  やめてよ!
セイジ  落ち着いて!明美達を呼ぶ手段を考えよう。何かないか?
ミナミ  わたしはないと思うわ。だって私達はみんなに見えないし、聞こえないし、気付くはずないわよ。
キタコ  奇跡に賭ける。それしかないわね。

 


男    三年前の夏の夜。とある小さなニュースが街に流れた。夜に踏み切りの中に入ってふざけていた高校生三人が、電車にはねられて死亡、現場にはねずみ花火などが残っており、夢中になっていて電車に気付かなかったものと思われる。
女    その時間帯、踏切の音は騒音防止のため消されており、また、近くの街灯が修理中だった事もあり、双方の確認が困難だったと思われる。警察では事故として処理される。たったそれだけのニュース。誰もが気にも留めない小さなニュース。
男    けれど。
女    けれど。
二人   その高校生たちの、
男    父親は、
女    母親は、
二人   どんな思いでそのニュースを聞いていたか。
男    つらかっただろう、悲しかっただろう。
女    信じられない思いで、ただ呆然と。
男    そうに違いない。
(ブレーキ音。)
男    準備はいいか?
女    大丈夫ですよ。
男    これから乗り込むぞ。
女    やっとこの日が来たのね。敵を討つ日が。
男    ああ。
女    苦しかったでしょうね。何トンもある電車にひき殺されて。今私達が復讐してあげるわよ。西治。
男    この建物が惑星電車本社だ。行くぞ。システム管理室目指して!


車掌   どうですか?ありますか?
アケミ  ううん、こっちには無いです。
探偵   やっぱり一号車にあるんじゃないのか?
車掌   そうですねぇ、戻りましょうか。こっちの二号車に無いんだから、一号車にきっとあるはずです。
アケミ  ごめんなさい、あたしが二号車にあるなんて言ったから。
探偵   なあに、気にすることはない、つまり爆弾が見つかればいいんだから。
車掌   そうですよ。もう四十分くらい経ったでしょうかねえ、でも諦めないで探しましょう、この車内にあると言うんだから。
(三人去り、セイジ達が来る。)
セイジ  爆弾がここにあるのに・・・お〜い、明美ぃ〜!
ミナミ  ・・・・・・・。(泣く)
キタコ  しっかりしなさいよ!明美ちゃ〜ん!車掌さぁ〜ん!爆弾はここよ!
セイジ  明美ぃ〜!
(明美達が来る。)
アケミ  こっちにありますよね、きっと。
キタコ  明美ちゃん!(ミナミに)ミナミ!明美ちゃん達が来たわよ!これでもう大丈夫よ!
ミナミ  見つかると思う?非常用酸素ボンベの扉を開けて、その奥を手で探って。ありえないわよ!
セイジ  とりあえず待ってみよう。ミナミ、後何分?
ミナミ  あと・・・二十分・・・。
キタコ  まだそんなにあるんじゃない。きっと見つけてくれるわよ。
ミナミ  分かった。あなたの言うことを今回だけは信じるわ、キタコ。
(暗転。片端の机にルリが座っている。)
ルリ   ちゃんと帰ってきなさいよ。夕飯作って待ってるから。このまま帰ってこなかったら承知しないからね。
(人の騒ぐ声。そして銃声。遠く聞こえる。)
ルリ   何だか外が騒がしいな。よし、あたしもちょっと見てくるか。
(外へ出ようとする。突如、男、女と鉢合わせる。)
男    惑星電車システム管理室へ案内しろ。
ルリ   ・・・・・この部屋だよ。 
女    太陽系線七号電車につなぎなさい。
ルリ   ・・・・・つないであるよ。
男    よ、よし。お前は人質だ。車掌に向かって自分の身の危険を知らせろ。
ルリ   ・・・・・。
女    この銃がこわくないの?
ルリ   ・・・・・。
女    (撃つ。轟音。)ね、偽物じゃないんですよ。
ルリ   ・・・太陽系線七号電車、応答せよ。こちらシステム管理室。
(舞台中央、明るく。)
車掌   はい、こちら太陽系線七号電車。ルリ、どうかしたのか?
ルリ   いや・・・・爆弾は?
女    (銃を押しつける。)
車掌   なかなか見つからないんだ。手分けして探してるんだが。ルリ、おい、聞いてんのか?
ルリ   あ、ああ、聞いてるよ。いまちょっとあたしの所で・・・・。
セイジ  なんだろう?何か新しい連絡じゃないのか?!
ミナミ  なに?セイジ。まさか爆弾が止まるの?
セイジ  分からない。じっと聞いていよう。
車掌   え?なんだって?良く聞こえないんだ。もう一度言ってくれ。
キタコ  はやくはやく!
セイジ  シーッ!静かにしろよ。
アケミ  なんなのかしら。ねえ、探偵のおじさん。
探偵   う〜む、こればかりは私にもわからん。
ルリ   このシステム管理室が今、乗っ取られているんだよ。あたしは人質にされてるんだ。
男    この女の命がおしかったら、無駄な抵抗などしないことだ。どうせあと二十分ちょっとの辛抱だ。そうすれば、楽になれる。
車掌   ルリを、ルリをどうするつもりだ!
男    それは車掌、おまえの行動による。あと二十分経ったその時に、女が生きるか死ぬか決まるんだ。
車掌   人殺し!
女    ・・・・・・あなたは違うんですか?
車掌   どういう・・・意味だ・・。
女    まさか忘れたわけじゃないでしょうね。三人の高校生をひいたことを。
車掌   あれは俺のせいじゃない!
セイジ  なんだか大変な事が起こってるみたいだぞ!
ミナミ  人殺しって?
セイジ  分からない。相手の声も聞こえればなあ。
キタコ  きっと爆弾犯からよ!ルリさんを人質にとって!
アケミ  なに?!なにがおこってるの?!
女    誰のせいかなんて関係ないんです!もう西治は戻ってこない!理由はそれだけで十分なんです!
ルリ   まさかあなた達はあの時の高校生の両親?それであの電車に爆弾を!?
男    その通りだ。永かったよ。今やっと・・・・(銃を撃つ)
車掌   ルリ!
ルリ   おい!聞こえるな!落ち着け。あたしなら大丈夫。この二人はあたしを人質にしてるんだ。きっと当分は生かして置いてくれる。だからあんたは乗客を安心させて、大きな声で叫んだりするな。いいね。
車掌   ・・・・・分かった。通信を切るよ。
ルリ   ああ。じゃあ、ね。
(ルリのいた場所、暗くなり、見えなくなる。)
探偵   何だったんだ?通信の内容は。
車掌   大したことじゃないですよ。べつに。
アケミ  本当、ですか?
車掌   もちろんですよ。
セイジ  何でもないはずがない。本当は何があったんだ?!
ミナミ  そうね。もっと重大な事が起こっているはずよ。
キタコ  絶対に爆弾犯よ!ルリさんを人質にとって!
ミナミ  全く別の人間かも知れないわよ。
セイジ  明美がこっちに来る!もしかしたら爆弾に気付いてもらえるかも知れないぞ!
アケミ  車掌さん、この扉はなに?
車掌   それは非常用酸素ボンベですよ。どっかが故障したとき、レスキュー隊を待つ時間、それで呼吸するんですよ。苦しくなったら。
アケミ  外には出られないの?
車掌   無理ですよ。俺には詳しいことは分かりませんが、宇宙で迷ってしまうでしょう。
アケミ  ねえねえ、車掌さん。この扉開けてみてもいいですか?
探偵   面白そうだな。私も開けてみたい。
キタコ  明美ちゃん!
ミナミ  そこには爆弾があるわ!はやく!
車掌   別にかまいませんよ。俺も見たことないんですよ。開けましょう。
アケミ  開けますよ。さん、に、いち、
六人   ゼロ!
(舞台暗く。ルリのいるところに明かりが。)
ルリ   で、あたしをどうするんだ?あたしはさっき言った通り、人質だよ。あなたたちはあたしを殺すことはできない。そうだろう。
男    確かに。けれどそれは電車が爆発するまでの話だ。私達の目的は西治の敵を討つこと。
ルリ   あんたたちが電車を爆破する。たくさんの人が死ぬ。それでその子が帰ってくると思うのか?
男    どうだっていいんだ!お前だって人殺しのくせに!
ルリ   あんたたちだってこれから人殺しになるんだよ。あと二十分もすれば。それでいいのか?
女    あなたには分からないでしょう。子供を亡くした悲しみは。ずっとずっと続くこの悲しみはあなたには分からない!
ルリ   ・・・・・・・・本当にそう思うの・・・・?
女    じゃああなたには分かるとでも言うの?私達のこの気持ちが!
ルリ   ・・・・・・・・・・。
男    分からないだろうさ。どうせ。
ルリ   分からないはずがないじゃない!
女    分かるわけない!
ルリ   分かるよ!あたしも母親だったんだ!たった十カ月間だけだけど、
     それでもあたしは・・・・・。
女    ・・亡くなったの?
ルリ   生まれたその瞬間にね。あたしはあんたたちみたいに、人を殺そうなんて思わなかった。ただ、悲しかった。なにもできなかった。
女    ・・・・。
男    私達はただ悲しいだけでこんな事をしているわけじゃない。お前たちは西治を殺した。それで私の実験はめちゃくちゃになったんだ! 
ルリ   実験?
男    西治のからだには、特別な遺伝子を植え付けたんだ!成功すれば学会で発表できた!
女    ・・・・あなた。
男    あれは卵子の時点で遺伝子を操作しなければいけないんだ!もう二度とあの実 験は出来ない!
ルリ   あんたたち、何考えてるんだ!実験?操作?子供は道具じゃない!
男    ・・・・・。
ルリ   あたしの子供は、生まれてきた。でも、それだけだった。ただ外に出てきただけだった。
女    その時には、亡くなって・・・?
ルリ   生きてたよ。
女    じゃあ、なぜ?
ルリ   あの子は生きていた。でも、外では生きられなかった。脳がなかったんだ。
男    なんだって?
ルリ   遺伝子が狂っていたんだ。あんたがやったのと同じ。普通に生まれてくることが出来なかった。病院では、また異常な子供が生まれるかも知れないと言われたんだ。あたしはもう一度産む勇気なんてなかった。それからあの電車はあたしの子供になったんだ。あたしはシステム管理。あの人は車掌として、ずっとあの電車に関わってきた。あの電車は、私達の電車なんだ!
女    ごめんなさい。私達もこの計画を止めるわけには行かないの。
(舞台明るく)
車掌   こちら太陽系線七号電車。応答せよ。
ルリ   ・・・・・こちらシステム管理室。何?
車掌   あったんだよ!爆弾が!
男    何だって!
ルリ   本当か! 
車掌   本当さ!ただ、俺は全然分からないんだよ。こういうのは。ルリなら分かるんじゃないかなと。
ルリ   何を。
車掌   爆弾の解体方法とかさ。
男    (銃を押しつける)
ルリ   悪いけどあたしは言えないんだ。
車掌   そうか・・・そうだよな。いや、今、電車の回路につながってる所を切ったんだよ。俺はそれが良かったかだけ聞きたいんだ。
ルリ   あんた、回路を切ったわけ!?
車掌   ああ。
ルリ   何も起こらなかったか!
車掌   俺が見た限りはなあ。
ルリ   それは電車内の電気を使ったとき、爆発させるための仕掛けだ!よく見て。ショートして熱が発生するようになってるはずだ!
車掌   ちょっと待て、見てくるから。え〜と、ああ、なってるぞ。
ルリ   よし!電車を発進させろ!爆発まで後何分?
車掌   後十分だ!
ルリ   次の駅までは?
車掌   十四分!
ルリ   何とか間に合うよ!思いっきりとばせ。あたしが警察に・・
男    (銃を撃つ)
車掌   ルリ!
ルリ   いいから早くして!
車掌   分かった。通信は切らないよ。
ルリ   いいよ。
車掌   皆さん。これから電車を発進します。
セイジ  間に合うのか?
キタコ  そう祈るしかないわ。
アケミ  あたしたち、助かるの?
車掌   わかりません。これは賭けですよ。今は一刻を争うんです。俺は行きますよ。
アケミ  車掌さん、頑張って下さい!
ミナミ  行ってらっしゃい!
探偵   私の命がかかってるんだ!是非がんばってくれ!
(車掌が去る)
セイジ  あれが仕掛けだったんだな。後は時限爆弾の仕掛けをどうにかすればいいん だ。
キタコ  時限爆弾の残り時間が、十分。次の駅までが、十四分。よね。
探偵   後何分で駅に着くんだ!
アケミ  いま発車したばかりじゃない。
ミナミ  セイジ君。わたし達、助かるわよね。
セイジ  きっと助かる、助かるよ。絶対。


車掌   システム管理室、応答せよ。
ルリ   こちらシステム管理室。何かあったのか?
車掌   いや・・・・なんとなく・・・ルリと喋るのも最後かもしれないとおもってな。
女    旦那さん?
ルリ   そうよ。あんたねえ、なに言ってんのよ!言ったでしょ、意地でも帰ってやるって。あたしだって待ってるんだからね!
車掌   そうだな。けど、間に合いそうにないんだ。このままじゃ。
ルリ   大丈夫。絶対に。
車掌   何でそう言えるんだ!
ルリ   あたしがそう決めたんだ。決めたことは守ってもらうよ。
車掌   わかった。
(車掌去る)
アケミ  待ってるだけっていやね。
キタコ  あたしも怖いわ。死んだときよりずっとこわい。
探偵   何もしないのがこんなにつらいとはな。
セイジ  もし・・・もしも助からなかったら、最期に一度でいい。明美ともう一度喋りたいなあ。
ミナミ  何言ってるのよ!さっき絶対助かるって言ったじゃない!
キタコ  あたしは・・助からなかったら、・・・
アケミ  あたしたちは助かる。
キタコ  え?
アケミ  そうよねえ、探偵のおじさん。
探偵   私はそう信じたいがな。
キタコ  びっくりした。あたしたちの声が聞こえたのかと思った!
セイジ  もし明美にぼくたちの声が聞こえたらなあ。それだけでもう思い残すことはないのに。
ミナミ  待ちましょう。死ぬことより、生きることを考えて。

車掌   ルリ?
ルリ   何?
車掌   ちょっとその、犯人と変わってくれないか?話してみたいんだ。何でこんな事になってしまったのか。
ルリ   わかった。どうぞ。
男    今更何を話そうと言うんだ。
車掌   三人を引いたのは俺です。それは認めます。
男    そんなことは分かり切ってる!
車掌   けど、教えて下さい。何故爆弾なんか仕掛けたんです?!何故ルリを人質に取ったりしたんです!?
男    復讐のためだ!それともお前は西治の命を、私達の研究を、返すとでも言うのか!
車掌   研究?
ルリ   この人たちは、息子の身体を実験材料にしたんだよ。遺伝子を操作して。あたしたちの子供みたいになったかもしれないのに・・・・・
車掌   ルリ、その話はもういい。犯人に変わってくれ。
ルリ   (うなずく)
車掌   すみません。ですが、そんなことは無理です。俺はただ・・・
男    なんだと言うんだ!
車掌   なんで俺以外の人間を巻き込んだ!何故だ!
男    私達だってそうだったさ。
車掌   何だって?
男    私達だって、西治に死なれるくらいなら、自分たちが死にたかったんだ。  

キタコ  後、八分で爆発。十二分で到着。
ミナミ  今、どのあたりにいるのかしら、私達。
アケミ  この電車、ちょっとずつだけど近づいてるのよね、次の駅に。
探偵   当たり前だろう。
アケミ  あたし、車掌さんに聞いてきます。後どれくらいかかるのか。

アケミ  (ノックをして)すいません、車掌さん。入りますよ。
車掌   お客さんだ。ちょっと待って下さい。どうぞ。
アケミ  車掌さん、後何分くらいで着くんですか?
男    誰だ?
車掌   女の子ですよ。乗客の一人です。(明美に)ええと、十分くらいだと思いますよ。
男    聞いたことのある声だ。そう・・・・娘に、明美にそっくりだ!
女    何ですって?
車掌   爆弾の残り時間は何分ですか?
アケミ  八分くらいだと思います。じゃあ、あたし、伝えてきますね。
車掌   お願いしますよ。
男    おい、今の子はどんな子だ?どんな服を着ていた?
車掌   どうしたんですか?いきなり。
男    いいから答えてくれ。
車掌   制服を着てますよ。襟の所にリボンがあります。
男    髪型は?
車掌   おろしてますよ、初々しい感じがします。どうしてそんなことを?
男    ・・・・間違いない。
車掌   は?
男    それは、私達の娘だ。
車掌   何だって!?

探偵   どうだ?後何分だ?
アケミ  十分だって。
セイジ  ・・・・無理、かもな・・・。
ミナミ  ・・・・・・そうね。
車掌の声 高橋 明美様、高橋 明美様。運転室にいらして下さい。
アケミ  あれ?あたし?
キタコ  何かしら?
アケミ  あたしちょっと行ってきます。

アケミ  なんですか?
車掌   やっぱりあなたが明美さんだったんですね。
アケミ  そうですけど・・・?
車掌   いえ、何でもないんです。ありがとうございました。
アケミ  ・・・・・そうですか。
車掌   そうでしたよ。間違いなく。
男    ・・・・・・・・・・・・。
女    あなた。
男    ・・・・無理だ。
女    あなた?
男    私は電車を爆破する。今更後戻りは出来ない。
女    そんな!明美を見殺しにするの!
ルリ   ・・・・・行くよ。
女    え?
ルリ   行くんだよ。爆弾を解体しに。
女    でも、主人が・・・・。
ルリ   あんただって母親だろう!旦那の意地と娘の命と、どっちが大切なんだ!
女    ・・・・・行ってきます。ごめんなさい、あなた。
(二人去る)
男    馬鹿だな。私は。

探偵   何だったんだ?
アケミ  良くわからないの。
セイジ  どういうことだ?
アケミ  名前の確認がしたかったみたい。理由はわからないけど。
ミナミ  名前の確認?
探偵   ふ〜む。私が推理するに、車掌君は爆弾犯と連絡を取っているな。
キタコ  あたりまえじゃない。
アケミ  連絡を取っていなきゃ、爆弾があることなんて分からないでしょ。
探偵   そう言う意味で言ったんじゃない。たぶん、話し合いのようなものをしているんじゃないか?
キタコ  そういえば、ルリさんに何かあったみたいだった!
セイジ  犯人は、車掌さんに個人的な恨みがあるのかな。けど、それなら電車を巻き込まなくてもいいような気がするけどなあ。
探偵   この事件には、深い意味がありそうだな。

女    間に合うんですか?!
ルリ   分からないよ。でも、システム管理室でじっとしてるより、電車めがけて宇宙に飛び出した方がいいでしょ。
女    ・・・ありがとうございます。
ルリ   ・・・・用意が出来た。準備して。三、二、一、ゼロ。
(轟音)

アケミ  怖い・・・・。
探偵   なんだ?突然。
アケミ  今、爆弾を見てたら、あたしはここで死ぬかも知れないんだって思った。すごくお兄ちゃんに会いたい。お兄ちゃんがいれば、怖くないのに。
セイジ  明美・・・・。
キタコ  こんな近くにいるのにね。何もできないなんて・・・・。
ミナミ  どうしようもないわね。こんなときに。
セイジ  奇跡がおきて欲しい。ぼくたちがこの電車に取り憑いた事も奇跡だった。もう一度奇跡がおき・・・
探偵   ・・・てくれればいいのに。
(明美、キタコ、ミナミ顔を見合わせ)
三人   へ?
セイジ  明美。
探偵   (セイジと同時に)明美。
アケミ  探偵さん、どうしたの?
探偵   私は何も喋ってないぞ!
セイジ  明美、僕だよ。
探偵   (同時に)明美、僕だよ。
アケミ  不気味。
二人   僕だよ。西治だよ。
アケミ  どうしちゃったの?
二人   今、この探偵さんの身体を借りて喋ってるんだ。僕はこの電車に取り憑いているんだ。     
アケミ  嘘でしょう?
二人   ほんとだよ。ぼくは、高橋西治。十月八日生まれ。好きなものはチョコレートアイス。嫌いなものは納豆。な、本物だろう。
アケミ  ・・・・みたいね。
二人   僕はいつも・・・
探偵   他人のからだを勝手に使うなっ!私は断じ・・・
二人   ・・・この車両の左から二番目の吊革の所にいるから!
キタコ  セイジ、良かったわね。
セイジ  ああ。
探偵   何だったんだ?今のは。
アケミ  あたしのバカなお兄ちゃん。
ミナミ  バカって言われてるわよ。
セイジ  (笑いながら)何て妹だ。今度仕返ししてやるぞ

車掌   間に合わないな。絶対。
ルリ   七号電車、応答せよ。
車掌   ルリ。どうしたんだ?
ルリ   今、そっちに向かっている所なんだ。爆弾を解体しに。
車掌   ルリ、い、今、何て言った?
ルリ   爆弾を解体しに、そっちへ向かってるんだよ。
車掌   後どれくらいで着くんだ?
ルリ   分からない。急いでるんだけどね。
車掌   ・・・そうか。幸運を祈るよ。

探偵   あと、何分だ?
アケミ  五分。
セイジ  良かったなあ。明美と喋れて。これでもう思い残すことはないよ。
キタコ  不吉なこと言わないでよ。
ミナミ  ねえ、わたし、今思ったんだけど・・・・
セイジ  何を?
ミナミ  わたしが死んだとき、なんだ、死ぬって、こんなに簡単なことなんだって、思ったのよ。でも、今は死ぬのが怖い。もしかして、わたしたちみたいに、ものに取り憑いている人たちって沢山いるのかも知れない。死ぬって事は、簡単なことじゃないって知るために。
キタコ  そうね。
探偵   助かるんだろうな!
アケミ  大丈夫。お兄ちゃんがいる。大丈夫。絶対に。

男    何故だ。
(探偵、キタコ、ミナミ、車掌、ルリ、去る。)
男    何故私はこのスイッチを押せなかったんだ!明美を殺すことは出来ない!
(男、スイッチを押そうとするが、止まる。)
男    いけない。この爆破停止スイッチを押したら、今までの努力が無駄になる。西治の敵を討つための三年間が無駄になる!
(男、スイッチを投げ捨てる。)
男    ・・・・昔は良かったなあ。西治が生きていた頃は・・・
セイジ  明美ぃ〜。バーベキューの用意できたぞ!
女    早くしなさい。明美。
アケミ  今行く!
男    火力が弱いな。西治、手伝ってくれ。
セイジ  明美、明美もやるか?父さんの手伝い。
アケミ  やるやる。
女    気を付けてね。火のそばは危ないから。
アケミ  わかってる!
男    ・・・・良かったなあ。あのころは。

探偵   車掌はどこだ!
アケミ  探偵さん、落ち着いてよ!
キタコ  もう、だめなのかな・・・
探偵   私は車掌にスピードアップを要求する!まったく!(と、言いながら去る)

ルリ   爆発まで後何分か、分かる?
女    一分十五秒です。
ルリ   やけに正確だね。
女    タイマーを持ってるんです。それぞれ。

男    一分十四秒か・・・・。

ミナミ  あとどれくらいかしら。爆発まで。
セイジ  一分十三秒。
アケミ  もうちょっとで一分切るわ。そうなったらもうおしまいよ!
キタコ  ほんとね。そうなったら諦めるしかないわ。
四人   ・・・・・・・・・あ。
男    ・・・・あ。
女    ・・・・あ
アケミ  ・・・五十、九秒。
男    これで西治の敵が打てる。
アケミ  四十九、四十八、四十七、四十六、、、
男    皆いなくなるんだ!車掌も!客も!、、、明美も。
アケミ  四十二、四十一、、、、お母さん、お父さん!
男    (何かに気付いて)私は何を迷っていたんだ!
(男、勢い良くスイッチを押す。)
女    あら?
ミナミ  みて!爆弾が止まってるわ!
セイジ  本当だ!
アケミ  ありがとう。お兄ちゃん。
セイジ  えっ?
アケミ  お兄ちゃんがいたから頑張れた。だから、いつまでも、あたしの乗る、この電車でいてください。
車掌   ルリ、後何分だ!
ルリ   止まったよ。
車掌   え?
ルリ   止まったんだよ。爆弾が。
車掌   ちょっと待て、どういうことだ?
ルリ   詳しくは分からないけど、ここに犯人の内の一人・・・お母さんのほうがいるんだよ。彼女が持ってるタイマーが止まったんだよ。つまり、爆弾は止まったんだ。
女    たぶん、私の夫が止めたんです。爆破停止のスイッチは、あの人が持ってましたから。
ルリ   こういうわけ。分かった?
車掌   ああ。
ルリ   ・・・・よかった。
車掌   ん?何か言ったか?
ルリ   なんでもない。なんでもないよ。

探偵   二十六分もかかるだと!ふざけるな!
アケミ  あ、探偵のおじさん!
探偵   やけに明るいな。
アケミ  よかったわね!ねえ、そうよね!
探偵   何が良かったと言うんだ!あと二十六分もかかるんだぞ!
キタコ  なにか変よ。
ミナミ  話がつながってないみたい。
セイジ  ほんとだな。
探偵   まったくもう。どいつもこいつも!
(探偵、去ろうとする)
アケミ  探偵のおじさ〜ん!待って!
キタコ  あ〜あ、行っちゃった。
アケミ  ・・・爆弾は止まったのに・・・。
探偵   (振り向きながら)何!
ミナミ  気付いたみたい。
探偵   本当か!
アケミ  知らなかったの?
探偵   ・・・・・・・・・・・うむ。
セイジ  やっぱり楽しいなあ!電車の中は!

セイジ  あの事件からもう二ヶ月。あのあと、車掌さんが乗客全員に事情を話してくれた。みんな、このことは口外しないと言ってくれた。警察沙汰になることもなく、事件は終わった。今日も明美がこの電車に乗ってくる。制服もだいぶ似合ってきた。
キタコ  そろそろ来るかしら、明美ちゃん。
ミナミ  バカね。まだ七時よ。早すぎるわよ。
キタコ  バカって、だれよ!
ミナミ  あんたに決まってるでしょ!
セイジ  明美!
(明美、入ってくる)
キタコ  誰がバカよ。
ミナミ  ・・・知らない!
アケミ  お兄ちゃん。(と、セイジの手につかまり、)今日は部活の朝練です。水泳部に入りました。とっても楽しいです。
車掌の声 太陽系線、太陽行き。木星駅です。かけ込み乗車は、おやめ下さい。
アケミ  あっ!ハルコ!
ハルコ  明美、おはよう。
アケミ  おはよう。ねえ、あたし、数学の宿題忘れちゃったんだけど・・・
セイジ  何て奴だ。宿題を忘れるなんて。
ミナミ  そう言う西治君はどうなのよ。
セイジ  いや、僕は・・・
キタコ  よく写させてあげてたわよ、ノート。
ハルコ  分かった。いいよ。ただ、あたしにも英語の宿題写させて。
アケミ  いいよ。
ハルコ  席、空いたよ。
アケミ  うん。
ハルコ  いいの?座っちゃうよ。
アケミ  座っていいよ。あたし、ここに立ってたいから。
ハルコ  よし、じゃあ・・・・・(探偵がやってきて、ユリを押しのけて座る。)
ハルコ  あたしが座りたかったのに・・。
探偵   ん?もしかしてあんたは、あの時の女の子じゃないか!
キタコ  探偵さん!やだ、ちょっと、重いよ。この人。
ミナミ  大変そうね。
キタコ  うるさい!
アケミ  探偵のおじさん!
ハルコ  知り合い?
アケミ  うん。
探偵   しまった!
アケミ  どうしたの?
探偵   追跡中の奴を見失ってしまった。また探さなくては。(と、言いながら探偵去る)
ハルコ  よし、英語の宿題、おわり。
アケミ  あたしも、数学の宿題、おわり。
ハルコ  あ、もうちょっとで火星駅だよ。
アケミ  ほんとだ。もう五十分経ってる。
セイジ  事件の時はあんなに長く感じたのになあ。
キタコ  ほんとね。
ハルコ  ねえ、明美?
アケミ  何?
ハルコ  なんで、いつも同じ場所で待ってるの?いつも同じ吊革につかまって。
アケミ  お兄ちゃんが、いるの。
ハルコ  え?死んじゃったんじゃないの?
アケミ  ううん、なんでもない。ただ、お兄ちゃんと手をつないでる気がするの。そういう気がするの。
車掌の声 太陽系線、太陽行き。火星駅です。太陽駅までは、各駅停車となります。御乗車、ありがとうございました。次は地球、地球駅でございま。。。。
(音楽。車掌の声が遠くなり、幕。)



Artículo cedido por Ignacio Suárez Beauville
Correo electrónico: ignaciob@terra.es
Web: http://www.geocities.com/nihongobakari